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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)562号 判決

原告

小幡幸子 外三名

被告

株式会社大村組 外一名

主文

被告等は各自

原告小幡幸子に対し金二〇〇、〇〇〇円

原告小幡隆幸に対し金二八〇、〇〇〇円

原告小幡則吉に対し金八〇、〇〇〇円

及び右金員に対する昭和三四年一〇月六日より完済まで年五分の金員の支払をせよ。

原告小幡幸子、同小幡隆幸及び同小幡則吉のその余の請求及び原告株式会社目黒製作所の請求を棄却する。

訴訟費用中原告会社と被告等との間に生じた分は同原告の負担とし、その余はこれを五分し、その一を被告両名、その他は原告小幡幸子、同小幡隆幸及び同小幡則吉等の負担とする。

本判決は原告等勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、被告等は各自原告幸子に対し一、〇〇〇、〇〇〇円、原告隆幸に対し一、五〇〇、〇〇〇円、原告則吉に対し二〇〇、〇〇〇円及び右各金員に対する昭和三四年一〇月六日より完済まで年五分の金員、原告会社に対し三〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三五年二月一日より完済まで年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一、訴外小幡幸男は原告会社のテストパイロットとして昭和三四年一〇月五日午後三時三〇分頃原告会社の製作にかゝる軽自動二輪車の試乗テストの為これにとう乗し、神奈川県足柄下郡箱根町小湧谷四三九番地先一号国道上を元箱根方面より、小田原方面に向い進行中、被告飯田は被告会社所有のいすゞ五七年型四輪貨物自動車を運転して右国道を小田原方面より元箱根方面に進行し来り小幡幸男とすれ違う際右貨物自動車の右側後車輪で小幡を轢き、頭蓋骨々折及び内臓破裂の傷害により同人を即死させた。

二、右国道は幅員七、八米の舗装道路で小田原方面より元箱根方面に向い約一五度の上り勾配をなし小田原方面より進むときは、本件事故現場附近で約九〇度右に屈曲していて、前方の見透し著しく困難で自動車の交通は極めて頻繁である。

三、被告飯田は、この国道を時速二五粁乃至三〇粁で上り勾配を進み、事故現場にさしかゝつたが、その前方を同方向に進行中の四輪貨物自動車を追越そうとしてその右側に出てこれと並列進行した。その時、偶々、被害者は軽自動二輪車に乗り右国道を被告飯田の反対側から下降し、曲り角を左折しようとしたが、被告の自動車が被害者の進路を遮断する位置にあつたので、ブレーキをかけて停車しようとしたところ、車輪がスリツプし横転したとき前記の奇禍に遭つたのである。

四、自動車運転者は曲り角で先行者を追越すことを避け、十分見透しのきく直線道路において、追越すよう配慮すべきであり、このような場所で追越すに当つては、十分前方を注視し、反対側より進行してくる車を発見したときは、その模様如何によつては何時でも停車できるよう徐行して事故の発生を未然に防止すべき義務があるにも拘らず、被告飯田はこの義務を怠り、反対側より進行してきた被害者を前方約二〇米の地点に発見し、しかも、被告飯田の進路は曲り角にさしかゝるのに拘らず、その先行車の右側に出てこれを追越そうとし、被害者の進路を妨害して本件事故を惹起したものであるから、被告飯田は過失の責を負わねばならない。

五、被告会社は貨物自動車による運送事業を目的とし、被告飯田は被告会社の被用者として貨物自動車の運転に従事しているのであるが、被告飯田は被告会社の事業の執行につき被害者の生命を害したのであるから、被告会社も右事故により原告等の蒙つた損害を賠償する義務がある。

六、原告幸子は被害者の妻、原告隆幸は被害者の長男、原告則吉は被害者の実父、原告会社は被害者の雇傭主であつて自動二輪車の製作販売を業とするものである。

七、被害者の死亡により原告等の蒙つた損害は次のとおりである。

(一)  被害者は昭和九年四月二七日生れで事故当時二五歳であつたので、事故がなかつたら少くとも四二年間生存することができた筈であり、六〇歳まで三五年間はこの職業に従事することができるものである。同人の一年間の収入は三四〇、八〇九円でこれよりその生活費七一、六〇四円及び租税三五一六円を控除した二六五、六八九円が純収入となり、少くとも三五年間この割合による利益を得ることができたであろうにも拘らず、この事故により右利益を失い、同額の損害を蒙つたものといわなければならない。しかるに、今一時にこれを請求するのであるから、この額より中間利息を控除すれば、三、三八一、〇〇〇円となるが、原告幸子同隆幸が労働者災害保障保険法に基き七六五、八〇七円を受領したので、これを差引くと残金二、六一五、一九三円となる。右は、被害者が本件事故により蒙つた損害であるところ、原告幸子は被害者の配偶者としてその三分の一、原告隆幸はその直系卑属として三分の二の割合で右損害賠償請求権を取得したので、その相続分の範囲内において、被告等に対し、原告幸子は五〇〇、〇〇〇円、原告隆幸は一、〇〇〇、〇〇〇円の請求をする。

(二)  原告幸子は夫なき後資産の見るべきものがないにも拘らず、幼少の原告隆幸の監護養育に当るべき義務を負い苦難の生涯を送るべき不運なめぐり合せとなり、その悲嘆と絶望とは筆舌に尽し難いものがありその慰藉料として五〇〇、〇〇〇円を請求する。

(三)  原告隆幸は幼にして父を喪い、長ずるに及び、父なきことによる精神的苦痛を感ずるに至るべきことは多言の要を見ないところでありその慰藉料は五〇〇、〇〇〇円を以て相当と思料する。

(四)  原告則吉は、老年になつて愛息に先立たれたことにより受けた精神的打撃は少なからぬものがあり、金二〇〇、〇〇〇円の支払を受けることによりわずかに慰藉されるものである。

(五)  原告会社は本件事故により次の損害を蒙つた。

(1)  三〇、〇〇〇円労働協約に基く弔慰金

(2)  一五〇、〇〇〇円香奠

(3)  一二、〇〇〇円遺体運搬費用

(4)  一五、三九五円遺体安置の為、恵明学園内の一室を使用したことに対する謝礼

(5)  三五一、八三三円葬式費用

等の支出を余儀なくせられ、同額の損害を蒙つた。

よつて、被告等に対し、原告幸子は七(一)の損害金五〇〇、〇〇〇円、七(二)の慰藉料五〇〇、〇〇〇円計一、〇〇〇、〇〇〇円、原告隆幸は七(一)の損害金一、〇〇〇、〇〇〇円、七(三)の慰藉料五〇〇〇、〇〇〇円計一、五〇〇、〇〇〇円、原告則吉は七(四)の慰藉料二〇〇、〇〇〇円及び右各金員に対する不法行為の後たる昭和三四年一〇月六日より完済まで年五分の損害金の各自支払を求め、原告会社は七(五)(1)乃至(4)の計二〇七、三九五円及び(5)の内金九二、六〇五円計三〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日たる昭和三五年二月一日より完済まで年五分の損害金の各自支払を求める。

被告会社の抗弁事実を否認した。(立証省略)

被告等訴訟代理人は原告等の請求を棄却するとの判決を求め、原告等主張の請求原因事実に対し、

一、二は認める。

三のうち、被告飯田運転の自動車が先行車を追越す際、その道路の右側に殆んど余地なく、対向車の進路を遮断する状況にあつたことは否認しその余の点は認める。被告飯田が先行車を追越そうとしてその右側にこれと並んだとき、同被告の自動車の右端からその道路の右端まで二米八五糎の余地を存していたので、被害者が徐行して軽自動二輪車で下り坂を降下してきたら、被告の自動車と安全にすれ違うことができた筈である。

四主張のような注意義務違反の事実が被告飯田にあつたことは否認する。本件道路には「上り優先」の指導標識があるので、上りと下りの車馬がすれ違うにつき危険の存する場合は、下りの車は停止して上りの自動車を優先的に進行させる義務があるのであつて、上りの被告自動車に停車すべき義務のないこと勿論である。のみならず、道路交通における車馬の進行優先順位はその最高速度によるべきところ、荷物自動車のそれは時速五〇粁、軽自動二輪車のそれは四〇粁であるから、この点からしても、荷物自動車は軽自動二輪車に優先して進行することができるもので、先順位の荷物自動車が後順位の軽自動二輪車に進路を譲るべき義務はないのである。

かえつて、事故現場から約一〇〇米坂上に「事故多発、徐行」の標識があるので、道路交通取締法第五条により、被害者は最高速度の二分の一たる時速二〇粁以下で軽自動二輪車を進行せしめることを要するのであり、右標識の地点より進むこと七〇米の場所には「左へ屈折」の警戒標識があるので、特に、前方注視を厳にすべき義務あるに拘らず、被害者は漫然時速五〇粁以上で降下して事故現場附近の屈折個所にさしかゝつたところ、約二〇米前方に被告の自動車が対向進行してくるのを認めたにも拘らず、減速することなく進行を続け、被告の自動車とすれ違う直前になつて急に制動したものである。当日、午前中の降雨の為路面が濡れていて軽自動二輪車の車輪がスリツプし、その場に転倒した為この奇禍に遭つたものであつて、本件事故は専ら被害者の過失により生じたものである。

五の事実中被告飯田が被告会社の被用者であること、被告会社の目的が原告主張のとおりであること、その事業の執行中に本件事故の発生したことは認める。

仮に、本件事故が被告飯田の過失により生じたとしても、被告会社は被告飯田の選任監督に十分の注意を払つたから、被告会社において右事故につき責任を負担すべき限りではない。

六、七の事実は知らない。(立証省略)

理由

原告主張の一、二の事実、三の事実中被告飯田運転の貨物自動車が本件事故現場附近で先行四輪貨物自動車を追越そうとしてその右側に出た時、道路の右端との間に殆んど余地の存しなかつた点を除きその余の事実は当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一号証、証人新藤国久、石井勝の各証言、被告飯田正好の供述の一部に検証の結果を綜合すれば、本件事故現場附近は小田原方面より進んで右方に約九〇度の角度で屈曲しているばかりでなく、その内側には側溝がなく縁取石から高さ一米乃至一、五米の緩斜面の敷地に連り、これに熊笹や灌木等が簇生している為、屈曲点の手前から、その彼方を見透すことが甚だ因難であること、被告飯田は原告主張の日時、その主張のように被告会社の貨物自動車を運転し沼津に赴く為、小田原方面より元箱根町方面に向い進行して本件事故現場にさしかゝつたところ、たまたま、その前方を同方向に進行する他の四輪貨物自動車があつたが、その運転者が被告自動車の進行してくるのに気付き、道路の左端に避譲して進行しはじめたので、被告飯田はその右側を追越そうとしたこと、その時、被告飯田はその二、三〇米前方から被害者が軽自動二輪車にとう乗して高速度で降下してくるのを発見したが、追越を断念せず、先行車の右側に出てこれと並列した為被告の自動車の右端と道路の右端との間には約二米八〇糎の余地を存するに過ぎなかつたこと、被害者は本件事故現場にさしかかる手前に、「左へ屈折」と記載した標識が設けられているので、徐行すべきであるにも拘らず、下り勾配を時速四〇粁以上の高速度で進行してきたばかりでなく、曲り角附近に達したとき被告自動車が反対側より対向して進行してくるのに気付いたけれども、これとすれ違う直前に達するまでは従前の速力を維持し、約七、八米前方の地点に至つて急遽制動したが、当日午前中降雨があつて路面が湿潤していたこともあつて、車輪がスリツプして運転の自由を失い、軽自動二輪車は進行左側に倒れ、被害者はその反対側に放り出され転倒したところを被告の自動車の右後車輪に轢かれたこと、以上の事実が認められる。およそ、自動車の運転者は道路の曲り角附近において他の自動車等を追越すことを厳にいましめるべきであるにも拘らず、被告飯田は、あえて曲り角附近において前車を追越そうとして、対向車の進路を小範囲に限局した為、すれ違いを困難ならしめて本件事故を惹起せしめたのであるから、過失の責を免れないのである。

同時に、被害者にも過失のあつたこと右認定の事実関係に徴し明かである。けだし、曲り角を車で通過する者は徐行すべき義務を負うこと当然であつて、本件において、被害者が徐行して注意深く運転すれば、すれ違いの窮屈な本件事故現場であつても、無事に通り抜けることができた筈であるところ、高速で通過するときは、とかく、曲り角の内側に近接して進行することが困難であつて、相当外側にふくらみはみだして進むことになり勝ちである為、安全にすれ違うことが極めて困難になることは自明の理であるにも拘らず、被害者はこの点に介意せず、徐行義務を怠つたからである。

被告等は、本件道路では、常に上り車が優先すべきであると主張し、本件国道に「上り優先」の標識の存する個所のあること弁論の全趣旨により真正の成立を認める乙第三号証により明かであるけれども、右に屈曲点において交わる両道路の角度が鋭角をなす場合のように、対向車が共に進行しつゝ曲り角をすれ違うことの危険視される場合に妥当するものであつて、その危険のない本件現場附近に被告等主張の理を容れる余地はない。被告等は、また、車馬の優先進行順位は法定最高速度に従うべきところ、荷物自動車の法定最高速度は軽自動二輪車のそれよりも大であるから、後者は前者に進路を譲るべきであると主張するけれども、右は同方向に進行する車馬に関するもので、対向車馬の進行順位を定めたものではないと解するのを相当とするから、被告等の主張は採用できない。

次に、被告会社は、仮に、被告飯田に過失があつたとしても、被告会社は被告飯田の選任監督に注意を払つたから、本件事故につきその責に任ずべき限りではないと主張するけれども、同被告の全立証によつてもこの事実を認めることができない。

よつて、進んで損害額につき判断するに、原本の存在することにつき当事者間に争なく、弁論の全趣旨によりその真正の成立を是認できる甲第七号証の六によれば、被害者は、原告会社より昭和三四年一月一日より同年一〇月五日まで給料として一七九、〇一七円、同年六月の賞与として三九、五六〇円を受領していることが明かであるから、本件事故がなかつたとしたら、昭和三四年中に二三五、〇四〇円の給料と賞与七九、一二〇円(一二月に支給されるべき賞与は六月に支給された賞与以下の額でないことを通常とすることは経験則よりして明かであるけれども、この点につき何等の立証もないから両者同額として計算)計三一四、一六〇円の収入を挙げ得た筈である。そして、右給与所得に対する所得税が五、九〇〇円となること所得税法三八条により明かであつて、右程度の収入ある者の年間生活費が七九、一一六円であること東京都発行に係る標準世帯家計調査報告により認めることができるから一年間の純益は二二九、一四四円となる。

被害者が事故当時満二五年の男子であつて健康体であつたことは成立に争のない甲第四号証の一、証人内田光友の証言により真正の成立を認める甲第六号証により明かであるから、被害者がこの事故に遭うことがなかつたら、爾後四二年間生存し得べきこと統計上明かであり、かつ、五五才に達するまで三〇年間原告会社に勤務することができたことは経験則により認めることができる。(原告等は被害者が六〇才に達するまで原告会社に勤務することができた筈であると主張するけれども、この事実を認めるに足る証拠はない。)従つて、被害者は一ケ年二二九、一四四円の割合で三〇年間合計六、八七四、三二〇円の純利益を挙げ得た筈であるところ、本件事故の為これを失い、同額の損害を受けたというべきであり、これよりホフマン式計算方法に従い中間利息を控除するときは、死亡当時の一時払の額が二、七四九、七二八円となること計数上明かである。しかし、前認定のとおり、被害者にも過失があつたのであるから、これを斟酌し、損害賠償の額は一、〇〇五、八〇七円と認定するのを相当とする。

そして、原告幸子が被害者の妻、原告隆幸が被害者の長男であることは成立に争のない甲第四号証の一により認められるから、法定相続分に従い、原告幸子は右損害額の三分の一である三三五、二六九円、原告隆幸は右損害額の三分の二の六七〇、五三八円の賠償請求権を相続により取得したものといわなければならない。ところで、原告幸子、同隆幸が労働者災害保障保険法に基き七六五、八〇七円を受領したことはその自認するところであるので、右原告等の相続分に応じ充当すれば、原告幸子の賠償債権は八〇、〇〇〇円、原告隆幸のそれは一六〇、〇〇〇円となる。

次に、原告則吉が被害者の実父で明治三一年生れであること成立に争のない甲第四号証の二により明かであるから、同原告が老年に及び子息に先立たれ、原告幸子が柱石と頼む夫と死別し乳児を擁して多難な人生行路を歩まなければならなくなり、ともに、精神上重大な打撃を受けたであろうことは推察に余りあるところである。また、原告隆幸が昭和三四年五月生れの幼児であることは成立に争のない甲第四号証の一により認められるところ、長ずるに及び父亡きことにつき精神的苦痛を感ずるに至るべきことは当然である。そして、原告幸子、同隆幸、及び同則吉の社会的地位及び資力その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し、右原告等の慰藉料は原告幸子、同隆幸につき三〇〇、〇〇〇円、原告則吉につき二〇〇、〇〇〇円を相当とするところ、被害者の前記過失を斟酌し原告幸子、同隆幸につき一二〇、〇〇〇円、原告則吉につき八〇、〇〇〇円を相当と認める。

次に、原告会社の請求につき判断する。同原告は、本件事故により被害者が死亡した為、香奠として三〇、〇〇〇円、弔慰金として一二〇、〇〇〇円を支出するの余議なきに至り、同額の損害を蒙つたと主張する。しかし、香奠や弔慰金は親族故旧が故人を悼み敬弔の意をこめて進んで霊前に供えるもので、遺族に対する贈与たる性格を有するから、有縁の者がこれらの出捐をしたからといつて、その額相当の損害を受けたと観念すべきものではない。

従つて、香奠及び弔慰金相当の損害を蒙つたとしてその賠償を請求するのは失当である。(原告会社は、労働協約により、右金額の弔慰金を支払う義務を負担していると主張するが、この事実を認めるに足る証拠はないのみならず、仮に、右の趣旨が協約で定められていて、弔慰金を支払うべき義務を負担していたとしても、この義務の履行による損害は、特別事情に基くものに外ならないところ、被告等が不法行為当時、この事情を予見しまたは予見し得べかりしことを認めるに足る証拠がないから、いずれにしても右主張は採用するに由ないのである。

次に、原告会社は、被害者の遺体運搬費用として一二、〇〇〇円遺体安置の為の費用として一五、三九五円、葬式費用として三五一、八三三円を支出し、同額の損害を受けたと主張するけれども、これらの費用は被害者の相続人たる原告幸子及び同隆幸の為、事務管理または委任事務処理をしたことによる費用に外ならないものであるから、右原告等に対してその償還請求をするのは格別、被告等に対し請求するのは失当といわなければならない。

以上説示のとおりであるから、原告等の本訴請求は、被告等に対し、原告幸子が損害金八〇、〇〇〇円及び慰藉料一二〇、〇〇〇円計二〇〇、〇〇〇円、原告隆幸が損害金一六〇、〇〇〇円及び慰藉料一二〇、〇〇〇円計二八〇、〇〇〇円、原告則吉が慰料八〇、〇〇〇円及び右各金員に対する不法行為の後たる主文表示の日より完済まで年五分の遅延損害金の各自支払を求める部分に限り正当として認容し、その余の請求及び原告会社の請求は失当として棄却すべく、民訴八九条、九二条、九三条、一九六条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男)

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